SunaSet

日々と生活

子ども

10年前に付き合っていた人と再会し

ビジネス街の裏、お気に入りのお店でごはんを食べた。

 

相変わらず格好良くて頭の回転が速くて

気遣いもエスコートも完璧だった。

お酒で気が良くなったからか、あなたは美しいねと優しい目で言われた。

そうよ、わたし美しいの。と笑って返した。

10年前は言えなかった。

だから言えてよかった。あなたは知らなかっただろうけれど、10年前も美しかったのよ。

 

 

 

夏休みの始まり

ありがとう、助かった。

少し涼しくなったと思われた矢先の夏日、

ぼんやりした体を叩き起こして冷えた緑茶を飲む。

 

難しいことはなにも考えられないから本は家に置いていく。

お風呂に入り、TURBANという名前がつけられた明るい色を爪に塗る。

髪の毛を乾かす間も暑くて、ごく弱めに冷房を入れる。

 

整体に行ったばかりだから

在宅勤務で内巻きだった肩も正しい位置に戻ったようだ。

時刻は昼の12時40分、外へ踏み出す。

 

イヤホンをしてSportifyで音楽を聴きながら

内回りの山手線で3曲分移動する。

改札を出ると人がいっぱいだ。

日差しの明るさと素早く行き交う人々に一瞬くらくらする。

信号の向こうに見慣れた姿が見えて

マスクをしているけれど目が笑ったのが分かった。

信号待ちの間にビッグイシューの最新号を購入して

お金を払った後に振り向くと信号が青に変わった。

自転車が多い横断歩道、山手線の線路が右手に見えて

人と人の間をすり抜けながら

まっすぐ渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

海外から届いた手紙を見つけた。

それは大失恋をした相手からで

20の時に届いた写真入りの封書だった。

引き出しの奥に眠っていて

懐かしいくせのある字だった。

 

表の宛名書きを見て、一拍おいてから

枕元に置いてあるA4の封筒に入れた。

レシートや個人情報が書かれた書類を入れておいて

ある程度たまったらシュレッダーにかける袋だ。

 

香港の空港で待ち合わせた時

スケートボードを抱えていたこと、

ヒースローまで迎えに来てパディントン駅でくまのパディントンを見せてくれたこと、

思い出す景色は鮮やかすぎて苦しくて息ができない。

青春だった。

 

離れてからしばらくが経つ。

もういいのではないかと手紙を見つけた時に思った。

全てが思い出でそれは紛れもない。

それでいいのだ。

 

ようやく体の一部となった気がする。

 

 

 

シエスタ

書かなければならないと思って書いている。

 

これは決意表明だ。

世界が止まっていて、季節も止まっていて、

歩みも止まっている今

東京の小さな町で文章を書いている。

 

あと何回愛していると言えるかわからないけれど

恋を止めず、ひらひらしたスカートを履いて

街に出る。

夜のダンスフロアーで音楽に体を委ねて

お酒とリズムに溶けて空気になる。

 

何一つ諦めない。

恋をしておいしいものを食べ

誰も気にせず夜明けまで踊り明かすのだ。

 

それが私の人生。

 

 

夜と海の間で

あの時確実に

わたし、死んでもいいわと

思ったの。

 

知らない人に殺されるなんてまっぴらごめんだわ。

どうせなら好きな人を抱いてから死にたい。

 

だからそうした。

頭の中はとても静か、三寒四温のなんでもない夜に。