108
除夜の鐘をつきに行った。
雨が少し降った歩道をダウンコートを着てさくさくと歩く。
歩きながら新年を迎えた。
小学校の頃の通学路をたどり大きなお寺へ向かう。
坂を上った左手に立派な鐘があり、右手には長く続く石段の上に墓地がある。
ゆく年くる年でよく見るような行列が鐘まで続いている。
大好きだった祖母が菩提寺に眠り
人生で初めて除夜の鐘をつきに来た。
列はゆっくりと進み自分の番が来た。鐘つき棒に結ばれた縄を持ち
後ろへ引き振り子の法則でそのまま前へとつく。
澄んだいい音がする。案外力はいらない。
みかんと甘酒を受け取り、火に当たりながら甘酒を飲む。
パチパチとお塔婆が燃える様子を見つめながらなんとなく達成感を感じていた。
静かな森の中を抜けて家へ戻る。都会とは全く違う空気の質。
ベッドタウンの小さい町、色んな悲喜こもごもを伴ってここで育った。
空気が良くて、静かな場所でよかったねと祖母の一周忌の時に心の中で思った。
お墓の前でお経をあげてくれたお坊さんが除夜の鐘のことを教えてくれたのだった。
108つ以上鳴らしていますけれどね、と人のよい笑顔で笑った。